Life Itself

生活そのもの

柴田元幸さん

柴田元幸さんのトークショー 。 前半では、翻訳、英米文学、村上春樹さんに関する面白い話をいくつか聞くことができた。中でも印象に残ったのは、村上春樹の話。村上春樹さんはジャズや英米文学に限らず、あらゆることに精通しているらしい。古川日出男さんが村上春樹さんにインタビューしたとき、インタビュー後に古川さんが柴田さんに、村上春樹と話をしていると自分がいかに漫然と生きているか思い知らされると言っていたそうだ。古川日出男さんですらそう思うのだ。どの分野に限らず、その分野で蓄積されてきたものや発揮可能なものを最大限に活かしつつ、そこからちょっとだけハミ出そうと努力しているものに対する感覚というのが、村上春樹さんはとても優れているように思うと言われていた。

後半からは朗読で、僕はこの朗読を聞くことがを始めて体験したのだが、とても興味深いものだった。全部で3つの物語を朗読してくれたのだか、1つ目は20分くらいの長めのもの、2つ目が10分程度の短いもの、そして最後が3分程度のショートショートだった。 僕の斜め前に座っていた人があまり落ち着きがない人で、前半部分の時から少し気になっていたのだが、朗読が始まっても落ち着く気配がなかったので、1つ目では目を瞑って聞くことにした。目を瞑っていてもずっと集中するのは難しく、瞑想しているときと同じように途中思考が動いてい動いて、気づけば話が飛んだりしていたのだけれど、柴田さんの朗読が聞きやすく、物語に欠落した部分がありながらもハラハラして最後まで聞いた。幽霊の、怖い物語だった。 2つ目の物語に入る頃に斜め前の人がどこかに行った。落ち着きがなかったのはどこか具合が悪かったのかもしれない。それで目を開けた状態で聞いてみることにした。瞑想でも半眼でいる方が集中できることがあるので、どちらが自分に適しているか試してみようと思ったのだ。それと、1つ目の時点で柴田さんの話し方が演劇的なところがあったので、表情などから視覚的に理解の助けになる部分があるのではないかと考えた。 目を開けた状態で聞く朗読は、それはとても良かった。というのも、柴田さんが思った以上に表情だけでなく身振り手振りで朗読していて、聞いているだけでは少し分かりづらいと思われる部分でも、柴田さんの動きを見ていると何倍も分かりやすくなった。

3つ目では斜め前の人は戻ってきたが、また目を開けた状態で聞いた。もちろん物語自体のおもしろさもあるだろうが、3分という長さはPOPSの音楽と同じ長さということで慣れていることもあるし、2つ目でいい感じに聞けたこともあって、一番面白く聞くことができた。 これをきっかけにオーディオブックなども聞いてみようと思った。

イベント終了後、柴田さんにサインをもらう際に名前を伝えたのだが、僕のフルネームを聞いて、同姓同名、読み方と苗字の漢字は全く同じで、名前の漢字2文字のうち1文字目まで一緒、2つ目だけ違う人を知っていると言われた。その人は柴田さんの教えていた学生さんで、黒人文化についての研究をしていたそうだ。大学時代に個人的に黒人文化の本は読んでいたし、ゼミで軽く発表したことはあるけれど、僕ではない。そんなに多い苗字ではないはずだが、そんな人がいるのか。 柴田さんと直接お話をすると、僕の大学時代の恩師のことを思い出した。人あたりの感じが恩師とそっくりだったし、柴田さんが名前の話題を振ってくれたようにその恩師も私の知り合いでね、とよく話をする人だった。