Life Itself

生活そのもの

寺尾紗穂『音楽のまわり』

雑誌『アルテリ』の最新号を求めに近所の雑貨屋に行ったところ、『音楽のまわり』というタイトルの何とも面白そうな本を購入した。値段を見ずに購入して、後からレシートでその値段を見て少し驚いたのだが、寺尾紗穂さんの自主制作本らしい。そんなに厚い本ではないが、とても丁寧に作られていることがわかる。
 
実はこの本は雑貨屋に行くたびに気になっていたのだ。この本はタイトルが示すように、ミュージシャンが音楽以外のことを書いたエッセイを集めた本である。本の表紙にはエッセイは書いたミュージシャンの名が記載されているのだが、一番上に「伊賀航」とある。「伊賀航」とは、あの「伊賀航」である。あの「伊賀航」の名前が一番上にある。別にあいうえお順に名前が並べてあるのではない。それなのにあの「伊賀航」が一番上にある。それだけでとても気になっていた。
 
今回購入するに至ったのは、最近少しずつ読んでいる寺尾紗穂さんの『彗星の孤独』が素晴らしいことと、最近ハマっている折坂悠太の名前を見つけたからだ。ユザーンやエマーソン北村など、馴染みのある名前があることにも初めて気がついた(なんせこれまではあの「伊賀航」の名前にしか目がいかなかった)。
 
さっそく昨日から読んでいるのだけれど、それぞれのエッセイに個性があらわれていてとても面白い。もちろん最初に読んだのは一番最初の伊賀航さんのエッセイで、これがなんともヘタウマな文章で愛嬌があって、何度も読み返したくなる。この本におさめられているエッセイはどれも短いが、伊賀航さんのエッセイはそんな中でもひときわ短い。しかしその短さからでも、伊賀航さんの人柄や笑顔がにじみ出ている。
 
僕は伊賀航さんという人をよく知っているわけではないけれど、福岡に来てからはどのライブ会場かで毎年伊賀航さんを見ている。高田漣さんと2人でやっていたときですら全く目立っていなかったけれど、一歩ひいた感じとあの笑顔が好きで僕は割と伊賀航さんをよく見ている。つい先日の細野さんのライブでも、細野さんが見ていたタブレットの設置場所の方角と高さの延長線上に、ちょうど僕の座っていた座席があって、僕は細野さんとしょっちゅう目があっている気がして、視線を逃したくなって伊賀航さんばかりを見ていた。伊賀航さんを見ているとなんだか安心する。細野さんのライブでいつも感じる自然体な感じには、もしかしたら伊賀航さんの存在が負うところも多いのかもしれない。伊賀航さんのベースの音もあまり目立たつ感じではないけれど、曲にいつもしっかりと安定感を与えている。
 
いや、しかし『音楽のまわり』の伊賀航さんのエッセイはホントいいなぁ。これ読むために2,000円払うよ!とまでは言わないけれど、伊賀航さんの文章を読むことができただけで購入した価値はあるように思う。
 
まだ伊賀航さん、植野隆司さん、あだち麗三郎さんまでしか読んでいないが、どれもいい。植野さんのはスパイスカレーの話。あだち麗三郎さんは身体の話。スパイスカレーが大好物で、ヨガをしているので、どちらもドンピシャな話だった。文章も上手だ。書き忘れていたが、伊賀航さんははじめての車の話。
 
子供の頃、同じ漫画を何度も読み返したように、この本は何度も読み返すことができそうだ。