Life Itself

生活そのもの

Vu Ja De

細野さんしか聴いていない。もっと言えば、細野さんの新譜『Vu Ja De』ばかりを聴いている。

 

細野さんの音楽は何回聴いても飽きないが、その理由の一つはたぶんすごく抜けがいいからだと思う。仰々しさがなくて自然体。唄い方もそうだし、バックバンドの音もそう。それぞれの技術はすごいんだろうけれど、無理やりテクニックを駆使しているという感じがない。あくまで音楽として調和が取れるように、それぞれの音を鳴らしているように聞こえる。だけど、調和が取れすぎていることもなくて、なんと言えばいいのだろう、音に作り込まれた感じがしなくて、日々行っているセッションをそのまま録音しているような臨場感がある。レコーディングをするためにセッション・練習をして、そのピークをレコーディングしたのではなく、それがピークであるかどうかは関係なくて日常として行っているセッション・練習のある日をたまたまレコーディングしたというような感じ。僕はそのように感じるから、身を構えて聴く必要がなくて、繰り返し聴くことができる。

ホントは苦労して苦労してレコーディングされているのだろうけれど、聴いているこちらにはそのようなことを感じさせず、ただ音楽に委ねることができる。肩を張らずに聞くことができる。どんな状態であっても日常に寄り添って聴くことができる音楽でありながら、同時に妖しげな非日常感もある。こちらとあちらの間(あわい)の音楽という感じがする。細野さんの音楽はいつだってそうだが、特に今作『Vu Ja De』を含めた直近の3作品はその印象が強い。

『Vu Ja De』は2枚組のアルバムだけれど、1枚あたり25分程度。そこがまたいい。1枚はカバー曲で構成されていて、もう1枚は細野さんのオリジナル。

カバー曲は、40,50年代のアメリカ音楽が中心だ。昨夜ラジオのオールナイトニッポンで細野さんが番組やっていて(星野源くんの代理ということで)、そのカバー曲のオリジナルをいくつか流してくれたのだけれど、アルバムのカバー曲はオリジナルと全然違っていて驚いた。細野さんのリズムで、細野さん節が出ていると思った。

オリジナルは、少し妖しげな「須崎パラダイス」という曲で始まる(この曲を聴くと、日野啓三の小説「夢の島」を思い出す。歌詞を読んでなおさらそう感じた)2曲目の「寝ても覚めてもブギウギ」も妖艶な印象。で、3曲目の「ユリイカ1」で一気に抜ける感じがする。細野さんプロデュースアルバム「daisy holiday」に入っていそうな感じ。4曲目の「天気雨にハミングを」が最高なんですな。この1曲だけでもこのアルバムを購入する価値はあると思う。で、5曲目は…と続けようと思ったが、面倒くさくなった。そもそもなぜ1曲ずつ紹介しようと思ったのか。いくら音楽のことを語ったところで、その音楽がどんなものかはわからない。もしたまたまこれを読んで少しでも興味を持った人がいれば、ぜひ『Vu Ja De』を聴いてほしい。これが気に入れば、きっと他の細野さんのアルバムも気にいるはずだ。このアルバムには昔から今に至るまでの細野さん節が詰まっている。

極めて個人的なこととして書いておくと、特にオリジナルの方の3曲目以降の流れを聴いていると、幼少期の頃を思い出す。ミニスーパーファミコンを購入したばかりだからかもしれないが、マリオカートのビーチステージを弟と2人でやっていた頃のことなんかを思い出す。夕方に放送されていたおかあさんと一緒のような番組で流れていた音楽を思い出す。そういえば、そこで流れていた曲で当時苦手な曲があった。怪しげで。それでも聴かずにはいられなかった。

細野さんの今回のアルバムを聴くと、過去から現在が連綿と続いているのだということを改めて感じる。細野さんの、僕自身の、そしてPOPS音楽そのものの。だけど、現在は過去からの連なりとは言っても、現在と過去は違う。現在はあくまで現在として、過去と繋がっていることを知りつつも新鮮に捉えたい。『Vu Ja De』。細野さんの音楽だけでなくて、この言葉に出会うことができてよかった。